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言葉が輝き、想いが届く──VERBAが日本で伝えるジュエリーの哲学

更新日:7月5日

ラトビア発のジュエリーブランド「VERBA(ヴェルバ)」は、ミニマルで文学的なデザインが特徴。言葉をアートとして身につけるという独自のスタイルで、世界中の人々を魅了しています。Interior Lifestyle Tokyo 2025では、デザイナーであり創業者のアンナ・ファニギナさんにお話を伺うことができました。彼女の創作に込めた思いや、コレクションにまつわる物語、日本で作品を発表することの特別な意味について語ってくれました。

アンナ・ファニギナさん(VERBA)へのインタビュー

VERBA Founder & Designer, Anna Fanigina
VERBA創設者・デザイナー アンナ・ファニギナ

「VERBA」という名前は、ラテン語の 「adbibere verba puro pectore(純粋な心で言葉を受け入れる)」に由来していると伺いました。この言葉には、どんな想いが込められているのでしょうか?

アンナ:私たちのデザインは、できるだけシンプルで誠実なものを目指しています。「オープンハート」であることを大切にしています。ジュエリーといっても、VERBAの作品は少し特別で、「想いを運ぶもの」なんです。自分への静かなメッセージだったり、大切な人への言葉だったり。

天然素材を好み、模倣を避ける、そんな「本物」を求める方に選ばれています。使う言葉の選定はとても直感的で、古代の文学の中から「自分が身につけたい、贈りたい」と思える言葉を探していきます。とても人間らしい、個人的な作業です。

日本文化も、象徴や意味をとても大切にしていますよね。そんな日本で作品を発表されるとき、特別に感じることはありますか?

アンナ:日本で作品を紹介する時、そのつながりを特に強く感じます。一見異なる文化に見えても、自然への愛、人との優しい関係性、内省的な静けさ、そして詩的な感性といった共通点が多くあると気づかされます。

SAKURA collection ring, VERBA
「SAKURA」 コレクション

たとえば、「SAKURA」コレクションには「万里同風」という日本語のサブタイトルを付けました。

SAKURA collection ring, VERBA

これは「千里に同じ風が吹く」という平和の象徴として使われる古い言葉です。桜の花びらのように、ジュエリーが文化を越えて人々をつなぐ存在になればと願っています。

日本の美意識、とくに線の清らかさや秩序には惹かれます。学ぶべきことが常にあります。

VERBAのコレクションには古典文学からのインスピレーションが多く見られます。たとえば「Analemma」シリーズでは、どんなふうに言葉を選んでいらっしゃるのでしょう?

アンナ:たいていは、読書の中でふと心に響く言葉に出会うんです。それをそのまま「言葉のコレクション」に加えます。

ただ、「Analemma」では最初から「太陽」をテーマにしたかったので、古典文学の中から太陽にまつわる文章を探しました。最初の作品には、キケロ(古代ローマの哲学者・弁論家)の言葉を使い、さらに「太陽への賛歌(Hymn to the Sun)」という素晴らしいテキストを見つけました。どの一節も、心を温め、考えを促し、喜びを与えてくれるものばかりです。

Analemma Collection, VERBA
「Analemma」コレクション

太陽は多くの文化で象徴的な存在です。「Analemma」コレクションのデザインへはどのように発展していったのでしょう?

アンナ:最初の作品は、2019年の夏至の前にラトビアで開かれたジュエリー展に出品したもので、「太陽の軌道を描いたネックレス」と「赤い円形のペンダント」でした。

天然石にはない「赤の透明感」が好きで、アクリルという現代的な素材を使いました。その後、より身につけやすく、共感を呼ぶラインに育てていきました。

太陽は、文化を超えて共通のシンボルです。エジプトやギリシャ、ローマ、バルト海沿岸など、太陽信仰の歴史を調べるのも楽しかったですね。日本は「日の出ずる国」。その日本で「Analemma」を発表できるのは、特別な意味を感じます。

「Analemma」が空をテーマにしているのに対して、「Ursis」は大地や神話を感じさせますよね。熊というモチーフは、どのように生まれたのですか?

アンナ:熊というモチーフは、古代神話や熊の信仰、民話、あるいはジム・ジャームッシュの映画など、さまざまな形で私の中に入ってきました。

Ursis Collection earrings, VERBA
「Ursis」コレクションのイヤリング

熊は“仲介者”なんです。神と人をつなぐ存在であり、現代では感情や思いやり、愛を表すキャラクターにもなり得ます。ちょっとおかしくて、賢い友だちのような存在ですね。

このシリーズでは、アイコン画にも使われてきた「水晶の下にイメージを封じ込める」技法を使っています。純粋さの象徴であるロッククリスタルが、熊たちに命を吹き込み、まるで魂を覗き込んでくるような印象を与えてくれます。

「Analemma」も「Ursis」も、自然が大きなテーマとなっています。日本の自然観やデザインとの共通点を感じることはありますか?

アンナ:もちろんです。私は自然のそばで暮らしていて、日々の美しさに触れるたびに心が癒され、エネルギーをもらっています。

「Analemma」では、自然のリズムや光の動き、太陽の詩的な側面を表現しました。物理的な現象としてだけでなく、命の源としての太陽を表したいと思ったのです。

Ursisでは、野生的で賢く、感情豊かな熊という存在を通して、人間の中にある“自然”を映し出しています。

日本文化には「葉の一枚」「影」「風の音」など、小さなものの中に大きな美を見出す力がありますよね。その繊細さや自然への敬意は、VERBAの感性とも深く通じ合っています。

VERBAは多様性や女性性も大切にしていると伺いました。それはどのように作品に反映されているのでしょうか?

アンナ:作品のテーマやコレクションの多様性自体が、それを物語っていると思います。たとえばラテン語の「variatio delectat(多様性は楽しませてくれる)」という言葉を、ピアスに刻んだこともあります。

私たちのジュエリーは、ほとんど女性たちの手でつくられていて、フォルムも柔らかく、触れていたくなるような感覚を大切にしています。

太陽の光を受けて輝く月のように、VERBAのジュエリーも過去の知恵や感情を、現代の形に映し出す存在でありたいと思っています。

また、古代ローマの壁画に登場する女性像からインスピレーションを受けたシリーズもあります。「あなたの名前は知らないけれど、その中に女神を見た」(オウィディウス)という言葉が象徴的です。

古代の言葉や哲学からの引用も多いですね。長い時を越えて、何かつながりを感じ

Anna Fanigina at Interior Lifestyle Tokyo 2025
アンナ・ファニギナさん(Interior Lifestyle Tokyo 2025)

ることはありますか?

アンナ:あります。古代の詩人や哲学者の言葉をジュエリーに刻むという作業は、彼らがどう生き、何を感じていたのかを知ろうとする行為でもあります。

ラテン語や古代ギリシャ語の辞書を引きながら、少しずつ彼らの心に触れるような感覚があるんです。

そして思うんです。「私たちは、そんなに変わっていない」と。人間の感情や願いは、時を超えて共鳴し合っている。だからこそ、その“つながり”を大切にしたいんです。

今回のInterior Lifestyle Tokyo 2025で、来場者に最も伝えたいことは何ですか?

アンナ:少し不思議かもしれませんが、一番伝えたいのは「日本文化への愛」です。ラトビアにいながらも、私たちは日本文化をとても尊敬し、心から惹かれています。

「Analemma」や「Ursis」は、もともと日本を意識してつくったものではありませんが、今見ると日本的な要素が自然と表れていることに気づきます。そして、それを日本のお客さまが感じ取ってくださるのが、とても嬉しいです。

ブースでは「かわいい!」という声をたくさんいただきました(笑)。その一言に、幸せを感じます。

Anna Fanigina and a visitor, Interior Lifestyle Tokyo
アンナ・ファニギナさんとお客さま(Interior Lifestyle Tokyo 2025にて)

VERBAとして20年以上活動を続けてこられましたが、創作意欲の源は何でしょうか?

アンナ:やっぱり、人なんです。人の中にある光、意味を探す心、愛を求める気持ち。それに触れるたび、「この仕事をしていてよかった」と感じます。

そして、言葉そのものが尽きることのないインスピレーションの源です。古典文学や哲学、詩など、読むたびに新しい発見があり、それがまるで「はじめての呼吸」のように感じられるんです。

時間が経つほどに、むしろ自由になっていく感覚があります。いまは、市場のニーズではなく、静かなインスピレーションに従って作品を生み出しています。

VERBAには、伝統と革新の調和という一面もあるように思います。そのバランスはどのように考えていますか?

アンナ:私にとっては、それは「矛盾」ではなく「自然な融合」です。銀や金を使ったジュエリー制作では、伝統的な技法(鍛造・ろう付け・研磨)を使っていますが、表現はミニマルで現代的なものにしたいと思っています。

素材や技術に敬意を払いながらも、過去にとらわれないことが大切です。たとえば「Analemma」では、赤いアクリルガラスという現代素材を使いましたが、古代の言葉と組み合わせることで、深い意味が生まれました。

永遠と刹那、過去と現在、手仕事の温かさとミニマルな美。そういった“対比”こそが私の好きな要素です。

最後に、日本のクラフト文化や美意識で、VERBAと通じ合うと感じる点があれば教えてください。

アンナ:日本の「物」への向き合い方には、とても感銘を受けています。敬意と静けさをもって向き合うという姿勢は、VERBAの哲学とも重なります。

たとえば「もののあはれ」という考え方。過ぎ去るものの美しさや哀しみ。それはVERBAが語る「時間や記憶、世界への優しさ」と深く通じています。

また、日本の職人文化の中にある「手仕事への集中」「工程への敬意」には、本当に学ぶことが多いです。静かで、意味を大切にする消費文化の中で、VERBAのジュエリーがそっと受け入れられたら──そんなことを想像するだけで嬉しくなります。

言葉に、命を吹き込む

Ursis and Analemma Collection, presented at Interior Lifestyle Tokyo
「Ursis」「Analemma」コレクション(Interior Lifestyle Tokyo 出展)

アンナ・ファニギナさんの言葉から伝わってくるのは、VERBAが単なるジュエリーブランドではなく、「過去と現在」「文化と人」をつなぐ対話のような存在であるということ。

古代の言葉、自然のかたち、ミニマルなデザインを通して、VERBAは身につける人にとっての“心に残る言葉”を届けています。

Interior Lifestyle Tokyo 2025という舞台で、そんなVERBAの想いは日本文化とも深く響き合い、豊かな共鳴を生み出しました。VERBAのジュエリーは装飾品ではなく──語りかける物語なのです。

 
 
 

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